Let sleeping dogs lie.


「さむっ」
 くぐもった声で、シーツを引っ張る。
 隣にいる人間の事なんておかまいなし。
 背中から文句を言われたが、無視したまま彼女は二度寝を試みる。
「暖房つけたばかりなんだ。もう少し経てば温まるよ」
「んー……」
 返事なのか寝言なのか、判断さえつかない。
「でもすぐ支度しないと……おい、寝るなって、レヴィ?」
 肩を揺さぶられ、邪魔そうにその手を払うと、またシーツを引っ張る。
 文句を言う気もなくし、彼は小さく溜め息を吐いた。
「寒いのか眠いのかどっちなんだ?」
「うるせぇぞ、少し黙ってろ……」
 彼女の口調から、夢の中の入り口へ再び向かっているのがわかる。
「黙らない」
 シーツが少し擦れる音と共に、背中にめいっぱい彼の体温を感じ、びくりと彼女の身体が硬直した。
「レヴィ、シーツは全部使っていいよ。けど二度ねはダメだ」
「……死ねっ」
 彼女の悪態があまりにもらしくて、彼は彼女の耳元で少し笑う。
 抱きしめる腕に力を込めたら、仕返しに肘打ちを喰らった。

 彼の部屋にかかってきたバラライカからの電話を、誤って彼女が取ろうとするまで、あと10分。