注:18禁。性的表現が多いです。苦手な方は注意してください。





セックスと孤独と罪悪感


 ――ああ、またか。
 心地よい脱力感が睡魔を呼び込んで、そのまま眠りに入ってしまうといういつものパターンを、今回も繰り返してしまっていた。
 今日こそは、起きていようと思ったのに。
 隣で寝息を立てる男の寝顔を思う様眺めて、少し眠って、先に起きてまた寝顔を眺めようと。優越感を味わおうとしたのに。
 彼女目標は達成されることなく、ベッドに腰かけ煙草をふかしている彼の背中に、また敗北感を味わったのだった。
(女みてェな肌しやがって)
 彼女は男のくせにと内心毒づいたが、自分がつけた爪痕がくっきりと残っているのを見つけ、それ以上考えるのをやめた。
 どうせだからもう一度寝直そうかとシーツを引っ張ると、彼の少し掠れた声が聞こえた。
「いつもなら一度眠るとなかなか目覚めないのにな。悪い夢でも?」
 言われて時計を見るとまだ午前2時だった。あれから1時間しか経っていない。目が覚めたのは、起きていようとした意識の名残りだろう。
「そっちこそ、眠れないのか?」
 質問に質問で返すと、穏やかだが少し蔭りのある苦笑が反ってきた。
「煙草が吸いたくなってね」
 目が覚めたんだと彼は付け加えた。
「あたしもさ。くれよ」
 彼は床に無造作に落ちている彼女のホットパンツのポケットをまさぐろうと手を伸ばす。
「いいよ。そいつをくれ。ひと口でいい」
 彼が咥えているマイルドセブンをだるそうに人差し指でさし示した。
 忠実に従い彼は彼女の口元に運んだ。
 彼女はそれをひと吹かしすると彼に戻してやる。
 すると彼は再び彼女に背を向けるように座った。
 暗い部屋の中、立ちのぼる煙と彼の背中の白さが際だって見えた。
 男のくせに色が白いと前にからかったことがあったが、はだけた姿はこの街に居るどの男よりも色気を感じさせる。
 彼女は腕を伸ばし、自分がつけた爪痕をなぞるように触れた。そして背骨に沿って上から下へと背中を撫でるように触れていく。
 尾骨のある辺りまで、するり、と。
 その行為に刺激を受けたのか、堪えきれなくなった彼は彼女の手首を強く掴み、強引に口づけた。
 覆いかぶさった衝動で、ベッドが激しく軋む。
 舌が混ざりあう音がいやらしく互いの脳髄に響き、一度沈下した欲情を再び引き上げてくる。
 息も忘れさせるほど、奥へ奥へと入り込んでくる彼のそれは、彼女を再び恍惚へと導くには容易かった。
 無意識に彼女の下半身がゆるゆると動き出す。両脚を大きく開き、彼の熱く硬直し始めたものに、熱く蕩け出したところを擦り合わせる。
「……っ、どう、して……だ」
 激しく舌を絡ませたまま、合間に彼女は言葉を漏らす。
「っ、……何?」
 まとに会話が出来るとは到底思えない状況だと思いながらも、彼は言葉の続きを待つため一度唇を離した。唇と唇を繋ぐように出来た細い糸が一瞬にして消える。
 彼女は荒れた息を整えることも忘れ、両手だけは彼の首に強く巻きつけたまま問う。
「どうしてあたしを抱くんだ、ロック」
 互いの関係を理解できないまま続けてきたセックスは、彼女の中に少しづつ孤独を生み始めていた。
 こんな時でなきゃ、いつ聞けばいい?
 彼女は孤独を訴えられるほど器用ではなく、また女のズル賢さも持ち合わせてはいなかった。
「寂しいとか感じたいとか、そんな子ども染みた理由じゃないけど」
 彼は愛しむように彼女の乱れた前髪をそっと流す。
「ただ時々――たまらなく欲しいと思うんだ、レヴィ」
 そうして彼は心の中でごめんと呟く。彼女を抱く理由なんて考えたこともなかった。絶頂に達する彼女の切なげな表情を見るたびに、罪悪感がちらついていたが、彼はこれまでそれを無視し続けた。行為は止めることが出来ないまま――繰り返された。いま彼女に問われてもなお、止められないのに、一体どうすればいいと言うのだろう。
 彼はしばらく考えて――考えたすえ、「続けるよ」と彼女に小さく告げた。
 軽くキスして、首筋から胸へと吸い上げる。同時に彼女の吐息が大きくなり、彼の聴覚を切なく刺激した。
 普段の姿からは想像もできない彼女の様子が堪らなかった。
 彼は彼女の胸の頂を舌で絶え間なく転がし、甘噛みし、また転がす。そしてもう一方を人差し指と中指の間で軽く押しつぶすように摘んだ。
「ん……ぁっ……あぁっ……ぁっ」
 彼女が愛撫に身をよじらせ腰を揺らすと、先ほど擦り合わせていた部分がぬるぬると音を出し始めた。
 ぬちゅっ、くちゅ――
 どちらの愛液かわからなくなるほどそれは混ざり合っていた。
 彼は音のする場所へと手を伸ばし、彼女の割れ目から溢れる愛液に栓をするように指を1本挿し込んだ。
「はあぁっ……! いきなり挿んな、バカ」
「もう1本欲しい? それとも動かす?」
 意地の悪い質問に、彼女は汗ばんだ顔を歪ませ彼の反りあがったものを掴んだ。
「っざけんな、さっさとこっちを挿れやがれ」
 先走りと彼女の愛液で充分に濡れていたそれを、彼女は片手でしごき始めた。突然の激しい快感に今度は彼が言葉を失そうになる。
「っ、くっ……ふっ……はぁっ、あっ、あぁっ、レヴィ、やめろっ、出ちまうっ……ダメだっ、挿れるぞ」
 口早にそう言うと焦るように彼女の中にそれをしずめていく。
「は、あぁっ……レヴィ……!」
「んぁっ……! ロッ、クっ、あぁっ」
 余裕がないのか、すぐに彼の腰の動きは激しさを増していった。
「やぁっ、やめっ、まてっ、んなに、激しくっ、すんなぁっ、あっ、あぁっ、ああんっ! ああっ!!」
 無意識なのか、求めるように彼女も動く。
 最奥を突かれるたびに快感で我を失いそうになるのを必死に堪えるため、彼の背中を掻き毟るようにしがみつくが、限界だった。
「ロックっ、イっ、イクっ、あぁっ――」
「はっ、あぁ、レヴィ、あぁっ、はっ、はぁっ、くぅっ――」
 彼の背中には、新たな爪痕がいくつもつけられた。


「さっきの話の続きだけど……どうしてかな。答えが見つからない」
 肌を重ねた後に告げるには残酷な物言いではあるが、彼が誠実に答えているということだけは理解できた。肌を通して彼の温かさをじか感じ、隙間なく中で繋がったことで一時的に満たされているだけかもしれない。彼女にもよくわからなかったが、それでも彼の気持ちは十分に伝わってきた。
 これまでよりも心地よい眠気が彼女を支配しはじめる。睡魔に負けたくなってきたのか、彼女は答えふがないなら、今はそれでもいいかのかと思い始めた。
「思い出したらまた聞いてやるよ。そン時までには、いい例えでも考えとくんだな、ロック」

 ――彼が答えを伝えたのは、それから数ヵ月後のことだった。