昼下がり。
授業が午前中に終わり、皆で昼食を食べに行く事になった。
「ねぇ、何食べるー?」
まひろが後ろを歩いていたカズキに問いかける。
「皆に合わせるよ」
「斗貴子さんは?」
「私もどこでもいい」
「だって! どこ行こうか?」
前を歩くのは、いつものメンバー。
今日はまひろの友達も数人混ざっている。
「斗貴子さん」
「なんだ?」
「斗貴子さんは何が食べたい?」
「なんでもいいとさっき言ったが?」
「そうだけどさ、本当は食べたいものあるんじゃないかって思って」
「そういうキミはどうなんだ?」
「オレ? オレは皆と一緒ならどこでもいいやって思うから。大勢で食べるのって楽しいしね」
「キミらしい答えだな」
「斗貴子さんはいいの? 今意見言っておかないとまひろの事だからとんでもないトコ連れて行かれるよ?」
「と、とんでもない所?」
「うん。この間なんかワースト1だって噂の店に連れて行かれて……噂以上の味だったなぁ」
そう言いながら笑う横顔に、視線が奪われる斗貴子。
いつもの事ではあるが、カズキはどんな些細な事でも笑顔で話す時は本当に楽しそうに笑う。
「でもそこの店長がいい人でさ。六枡が味つけのアドバイスしてたっけ」
話を続けるカズキの横顔に、斗貴子は何故か視線を離せなくなった。
(?)
その事に自分で気がついた斗貴子は、そっと視線をそらした。
(意識をとられるな、カズキの笑顔は)
急に斗貴子が黙ってしまったので、今度はカズキが斗貴子の横顔を伺う。
(……)
視線に気づき、斗貴子が言う。
「どうした?」
「えっ!? い、いや!……斗貴子さんお腹空いたのかなーとか思ったり思わなかったり」
「カズキ、自分が言っている事が理解できているか? おかしいぞ」
「あはは、そうだね」
(思わず魅入っちゃったなんて言えないよなー)
その横顔が、あまりに綺麗だったから。
そんな事を思っていると、前を歩いていた岡倉が叫び声を上げた。
どうやら、またあの店に行く事になったらしい。
「まひろ、どこ行く事になったんだ?」
「前に皆で行ったおやっさんの店だよ」
「りょーかい」
あははと笑合いう武藤兄妹。
「どうやら決まったようだな。」
「うん。引き返すなら今のうちだよ、本当にすごいから」
すごいの意味はもちろん味の事。
斗貴子はしばらく考えてから、目を閉じて言った。
「皆でというのも、最近はいいのもだと思うようになった。……キミのおかげかもな」
そしてカズキに優しい微笑みを返す。
(か、可愛い……)
胸がきゅっと締め付けられるような感覚。
そして鼓動の高鳴りさえ感じる。
そこにはすでにまともな“心臓”は存在しないのに。
「どうした? 顔がかなり赤いぞ?」
「あっ、これは」
「あぁ、生まれつきだったな。それは持病か?」
「ま、まぁそんなトコ……かな?」
しばらくは持病という事にしておこうと、カズキは思う。
これからいつこういう反応を自分がしてしまうか、わからないから。
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