16歳


 日差しが強い所為で、空気までもが熱を増す。
 夏も間近だという証拠だろう。
 朝から急に気温が上がったためか、体がだるくて仕方ない。
 カズキは屋上でいつもなら皆で摂る昼食を摂らずに、保健室に連行されていた。
 もちろん、強制連行だ。
 本人はその必要はないと言い張ったが、妹のまひろや岡倉達に無理やり運ばれてしまった。

『いいって! オレ全然平気! ほら! メチャクチャゲンキダゾ〜』
『気の抜けた声で言っても全然説得力ないよ! そんなに顔色悪いのに!』
『そうだぜ! お前がちょっとやそっとじゃ死ねぇのは充分承知だけどな、数学の授業中にその顔色と寝不足顔で寝てないのは異常事態だ!』
『わー! 降ろせ岡倉ー!!』
『うるせぇ! 黙れ! 舌噛むなよ!』
『〜〜〜っもうおぞい゛ー……』
『諦めろカズキ。そもそもそんなに無理するからだ。自分の限界を知っておくのも大事だぞ』
『斗喜子さん……』
『ストロベリッてんじゃねぇ! 行くぞ!』
『だ、誰が!』
『わー岡倉! 待て! 一人で歩けるって!』
『いや担いで走る! 売店が混む前にお前を保健室に送り届けるのが本日の俺の使命だ!』
『誰の命令だー!』
『六枡!』
『やっぱりかー!』


 そんなこんなで、カズキは現在保健室のベットに横になっている。
「……斗喜子さん」
「なんだ? 何か飲むか?」
「い、いや! そうじゃなくて……皆のトコ戻っていいよ?」
 連行されてしばらくしてから、斗喜子が来た。
 昼食はと聞けば、もう摂ったと答えるだけ。
 そんなハズはない。
 まだ昼休みが始まって数十分しか経っていないのだから。
「いや、ここに居る」
「どうして?」
「キミの事だ、またすぐに元気になったと言って動きだすだろう? だから私はここに 居る事にした。昼休みはまだある。ゆっくり休め」
「でもそれじゃ斗喜子さんが……」
「いいから、大人しく寝てなさい」
 起き上がろうと上半身を起こすと、すかさず斗喜子がそれを制した。
 カズキの両肩をベットに押し付ける。
「……!」
 倒された体勢で一気に顔の熱が急上昇するカズキ。
「?」
 そのカズキの反応に一瞬疑問を覚え、はたと気づいた斗喜子は焦って手を離した。
「な、なんでそこで赤くなるんだ!」
「ご、ごめんっ」
「……」

 武藤カズキ16歳。
 彼の春はまだ始まったばかりだ。