いつだったかも、はっきり覚えている。
エドの腕とアルの体が持って行かれて、しばらく経ってからだ。
彼女に会ったのは。
正しくは、彼女達が来たのは。
軍の人は嫌いだった。
人を助けに行くと言って出て行った両親は、帰って来なかった。
もう2度と会うことはない。会える事もない。
あたしはそれを知らされた時、ただ泣くしかなかった。
泣く事しか出来なかった。
死んでしまった両親のために何かをしてあげたかったけど、泣く事しかできなくて。
ばっちゃんはあたしが元気で生きていく事がなによりも両親のためだって言った。
今思うと、自分の息子夫婦を亡くしたばちゃんもあたしと同じ気持ちだったに違いない。
それから何年か経ち、エドとアルの“あの日”の出来事。
あたしはは泣くのを必死に堪えて、エドの看病をした。
辛そうなエドを見るたび、あたしが泣きそうになった。
でも泣いているだけじゃ助けられない。それを良く知っていた。
亡くなってしまった両親から最後に教わった事。
でもエドは生きてた。アルも、体はなかったけど、生きてた。
生きている。
その事がなによりの救いだった。
もう誰も失いたくなかった。あんな悲しみはもう2度としたくなかったから。
エドは無事治療が終わり、意識も戻って、だいぶ回復してきた頃。
あたしの好きな、エドのあの瞳の輝きはなくなっていた。
輝きまでも持って行かれてしまたのだろうか。
本気でそう思ってた。
そんな日々を送っていた時、彼女達が来た。
初めは何しに来たんだろうってすごく不思議に思ってた。
でも、しばらくして、話の内容が飲み込めた。
連れて行こうとしてる。二人を。
頭の中にそれがよぎった瞬間、両親を思い出す。
お願い、神様。
もし、もし本当にあなたがいるなら、お願い。
もうこれ以上、あたしから家族を奪わないで……。
耐えられなくなって、ドアを閉める。
廊下のイスには、一人の女性が座っていた。
これが、あたしの今後の道を決める出会いになる。
彼女と話した。
少しだけ。
そうしたら――
軍人の彼女が、自分も軍人は好きじゃないと言った。
じゃあなぜ軍にいるのかと聞いたら、こう答えた。
「守るべき人がいるから」
人は殺したくない
けど――
守るべき人のために、その人が、目的を達成するその日まで。
迷うことなく引金を引く。
確かそんな事を言っていた。
彼女の話しを聞いて、自分の中で納得のいく理由を見つけるまで、そう時間はかからなかった。
誰かのために。
大切な誰かのために、生きる。
父さんと母さんは、自分達を待つ誰かのために行った。
誰よりも人の命を大事にしてたから、そのために自分達に出来る力で守ったのかな。
あたしが思っている以上に、たくさんの人々を。
じゃあ、今度は私の番だと、自分の中から声が聞こえた。
大切な人を守れるように、大切な人の命が心の底から輝くように。
私は、両親と同じ道を選んだ。
自分と誰かのために、生きる道を。
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