Hand Made T


 「さっみぃぃ〜!」
 季節は冬。
 リゼンブールにも、だんだんと雪が積もってきていた頃。
 エドとアルは、久しぶりにリゼンブール駅に降り立った。
 実は、アルの強い要望があったのだ。
 エドはめったにない弟の要望に、ある程度の違和感を覚えながらも、表向きは面倒そうに立ち寄る事 に同意した。
 表面には出さないが、実際は帰るのが嫌いという訳ではない。
 旅から旅への根無し草も、たまには故郷が恋しくなる。
 ただ、それを表に出せるほど、エドは大人ではないのだ。
 素直じゃない、意地っ張りなどという話ではない。
 それは一つの決意。

 12歳の時の早すぎる人生の決意。

 駅から外へ出ると、雪が深々と降っていた。
 同じ歳くらいの少年が、目の前を数人で走って行った。
 本当なら、彼らも今の少年達と同じように、走っていてもおかしくはない。
 だが、彼らの選んだ道は、子供にしては荷が重い。
 同じ子供でも、環境が違えば考え方も違う。
 精神的な、本当に深い所では、エド達の方がずっと大人なのだろう。
 まっすぐに純粋に物事を見つめる事は出来る。
 けれどエドとアルは、同年代の子より、ずっとその先まで見る術を持っている。
 背負っている決意があるだけで、人間とはこうも違ってくるものなのだろうか。


 「変わってないね〜、ここは」
 「変わるわけねぇじゃん。こんな田舎」
 「そこがいいんじゃない?」
 「まぁな」
 少年達を見送りながら、止めていた足を一歩踏み出す。
 「しっかし、すっかり冬だなぁ〜。さみぃ〜!」
 「兄さんさっきからそればっかりだね」
 「オレは寒いのと暑いのが嫌いなんだよっ」
 笑われているのが不満なのか、兄の方はめちゃくちゃな事を言っている。
 「はいはい」
 慣れきった様子で返事をする、出来のいい弟。
 「そういやお前、なんであんなに帰って来たがったんだ?」
 「ん?」
 聞かれた事に一瞬驚いたが、アルはこういった事を隠すのがうまい。
 「久しぶりにさ、ピナコばっちゃんのご飯が食べたくならない?」
 「……?」
 「ははっ。冗談だよ、顔が見たくなっただけ」
 「ふぅ〜ん……
 なんだかまだ腑に落ちていない様子に、さすがのアルも怪しまれている気がしてならない。
 「ねぇ、渡したいものがあるの」
 久しぶりにロックベル家に電話したのはアルだった。
 エドには言わなかった。
 きっと、面倒くせぇ事すんなとかなんとか、うるさく言うだろうと思ったからだ。
 本当は自分が一番、声が聞きたい人がいるくせに。
 「渡したいもの? 兄さんに?」
 「なっ、違うっ! 二人に、よ」
 「僕も?」
 「そうよ?」
 「ん〜、でも兄さんがなんて言うか……
 「たまには理由なく帰って来なさいよ。ばっちゃんも寂しがってるし」
 電話口の遠くの方で、ばっちゃんの抗議の声が聞こえる。
 「寂しいのはウィンリィなんじゃないの? 兄さん、元気だよ」
 「だーかーらー、違うって言ってるじゃないアルのバカ! とにかく、戻って来なさい! 来ないと承知 しないわよ! じゃあね!」
 そうして、ガチャンと音を立てて、電話を一方的に切られたのに、アルはなんだか嬉しかった。


 ウィンリィとの約束(?)を破るような事をアルが出来るわけもなく、かと言って、 ウィンリィが会いたがっていると告げたところで、素直に帰るという兄ではない事を知っている。
 アルは仕方なく、ウィンリィのためにも、自ら帰りたいとエドに言い出してみた。
 今までそんな事は一度も言った事がなかったので、どういう反応をされるか少し不安だったが、
 以外とあっさりエドも同意してくれた。
 「ま、メンテもそろそろして貰わなきゃなんねぇしな……
 本人は気持ちを隠しているようだったが、きっと彼女に会いのをずっと我慢していたのだろうと、 アルは思う。


 駅からしばらく歩くと、懐かしい顔にたくさん出会う。
 「よぉ! 元気だったか?」
 「しばらくいるの?」
 「相変わらずチビだな〜」
 最後の歓迎の言葉に、エドが怒り出さない訳もなく。
 けれど、昔からの知り合いなので、本気で怒る事もない。
 彼らの言葉には温かさがある。
 幼い頃に母親を亡くした(父に至っては行方不明)と言えど、彼らが今まで明るく育つことが出来たのは、
 彼らの存在も大きかった。
 それだけ、ここは温かい人間ばかりだという事だろう。
 会う人会う人に声を掛けられながら、少しづつロックベル家へと進む。
 進むにつれ、典型的な田舎の風景がひらけてくる。
 町からはだいぶ離れて来た証拠だ。


 「お帰り〜!」
 一本道の先から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
 ウィンリィだ。
 二人だと確認するまでもなく、走ってこちらに向かって来るウィンリィ。
 「ただいま〜!」
 そう素直に答えたのはアル。
 「……
 エドは何も言わない。ただ彼女が走って来るのを見ているだけ。
 走ってくるウィンリィ。もう至近距離だ。
 だが様子がおかしい。
 二人のいる場所まで来て、立ち止るかと思いきや、その走る勢いは衰える事なく、
 いきなりエドの腕をかっさらうかのように掴んでそのまま走り去ろうとする。
 転びそうになるのをなんとか堪え、引きずられるように一緒に走るしかないエド。
 「うぉっ!? ……おい!! なにすんだいきなり!!」
 「いいから急いで! せっかくシチュー作ろうと思ったのに、牛乳が足りなくなったの!」
 「なにぃ!?」
 その様子を流れるように見ているアル。
 もうすでに離れてしまった距離から、ウィンリィが危なっかしげに振り向きながらアルに叫ぶ。
 「ごめん! 買い物してすぐ戻るから! エド借りてくね〜!」
 「オレは荷物持ちか!!」
 「文句言わない!」
 その二人のやりとりを見送りながら、アルはエドが思わず手離したカバンを拾い上げる。
 「変わってないなぁ〜」
 そう言いながら苦笑するアルの背中は、冬独特の赤い夕日で照り返されていた。


 しばらく走って、ウィンリィは急に立ち止まった。
 一緒に走っていたエドは少し先にまで行ってから、彼女が止まった事に気づく。
 「なんだよ、急いでんじゃねぇのか?」
 「すっかり忘れてた」
 「今度はなんだよっ」
 「お帰りなさい」
 そう言って、ウィンリィはにっこり笑う。
 不意打ちを食らったかのように目を丸くするエド。
 「……おう」
 彼女から目をそらして、返事をする。
 「素直にただいまくらい言いなさいよ」
 「うっせぇな。お前がいきなりオレの腕掴んで走りだすからだろ」
 「仕方ないでしょ? シチュー作りかけで焦ってたんだもん」
 「別に焦る必要もねぇだろ」
 言われるまで、ウィンリィは自分が焦っていた事に気づかなかった。
 ただ、二人が帰って来る事に浮かれて、冷静になればわかる事もすっかり忘れていたようだ。
 「あ……それもそうね」
 その事で、どれだけ自分がエドに会いたかったのかを、思い知る。
 なんだか、心を見透かされたようで、少し恥ずかしくなる。
 「そうだよ」
 久しぶりに間近で見るウィンリィは、この間会った時より大人びて見えた。
 そう自覚しただけで、胸の鼓動が早くなる。
 会えば会うほど、彼女の事を考える時間が増えているのが、エドの悩みの種だった。
 別れを繰り返すほど、気持ちは大きくなるばかりで。
 会いたい気持ちはあるくせに、会いたくないとも思うのは、自分自身が怖いから。
 なにかの拍子に、今度こそ、この想いを全て吐き出してしまいそうになる。
 いつもこの感情を抑えるのに精一杯だった。


 しばらく二人で黙っていると、エドがある事に気づいた。
 「……お前、ちゃんと寝てるか?」
 「え?」
 驚いているウィンリィをよそに、エドは彼女に近づくと、顔を覗き込むようにマジマジと見る。
 「……オートメルいじり過ぎなんじゃねぇの? 相変わらずメカオタクだな」
 原因はそこではないのだが、寝不足なのは事実。
 「あ、あんたに言われたくないわよ。それに……
 「?」
 「別にオートメイルいじってて寝不足な訳じゃないわよ」
 そうつぶやいて、ウィンリィは再び歩き出した。


 → to be continued ...